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2015年11月16日

『カッレくん』の食べ物

2015年11月16日(月)

『やかまし村』にひきつづき,『カッレくん』の食べ物探し中。

『カッレくん』の食べ物

カッレくんシリーズの第2巻,左が尾崎義訳『カッレくんの冒険』,右が原書『Mästerdetektiven Blomkvist lever farligt』。

『やかまし村』に比べ『カッレくん』は食べ物の記述が少ない。男の子が主人公のせいか,思春期のせいか。
カッレの家は食料品店だというのに,夏休みにいやいやながら店番をまかせられて塩漬けニシンを新聞紙にくるむ,というくらいしか食べ物への言及がない。
カッレの親友アンデスにいたっては,好きな食べ物ではなく嫌いな食べ物が出てくるのみだ。それはゆでたタラ。スウェーデンの子どもはゆでたタラがあまり好きでないのか,『やねの上のカールソン』でもゆでたタラをいやがるシーンが出てきたと思う。それとも子ども時代のリンドグレーンがそれを嫌いだったのか,リンドグレーンの息子ラッセがそれを嫌いだったのか。

美味しい食べ物を一手に引き受けるのは白バラ軍の女闘士,エーヴァ・ロッタだ。エーヴァ・ロッタの家はパン屋さん,一人娘に甘いパパは美味しいパンを焼いては娘に好きなだけ食べさせる。でも13歳の娘は食べても食べても針のように細い。

エーヴァ・ロッタのパパのつくるパンはどういうものだろうか。
『カッレくんの冒険』で,殺人事件を目撃してしまったエーヴァ・ロッタを訪ねてパン屋リサンデルにやってきた警部とビョルク巡査にリサンデル夫人が勧めるパンは

焼きたてのクリーム・パン

とある。原書では

nybakede wienerbröd

である。nybakede は焼きたて,wienerbrödはウィーンのパン,の意味で,いわゆるペイストリーとか,米国でデイニッシュと呼ばれるタイプのパンだ。

殺人犯人の目撃者としてエーファ・ロッタのことを新聞が書いた記事のなかの

父のパン工場からの焼きたての白パン

は,

nybakat vetebröd

だ。vetebröd は昨夜『やかまし村』の食べ物についての記事で,平たいパンと,卵の入ってないパウンドケーキタイプという二種類の意味があるのではないか,と書いたが,この新聞の文から考えるに,広義のvetebrödでは小麦で焼いたパンという意味になるのではないか。つまり尾崎義さんが書くところの白パンである。
ネットでスウェーデンのパンについて検索すると,白いパンはfranskabröd フランスのパンと呼ぶ,と書いてあるサイトがあったので,現在では,同じものをさしてvetebrödよりもranskabrödが使われるのかもしれない。


殺人事件を目撃したショックからすぐに立ち直ったエーヴァロッタがカッレ,アンデスと「聖像」の隠し場所について話し合うシーンで,三人がパン屋さんのあずまやで食べるのは

焼きたての菓子パン

で,これは

färska bullar

とあり,『やかまし村』で述べたように,丸い菓子パン全般を言う。


カッレらの活躍が寄与して殺人犯がとらえられ,動かぬ証拠をつきつけられて自白したのち,最終章ではアンデスら白バラ軍が,シックステンひきいる赤バラ軍の闘士たちに「山賊ことば」を教える。カッレは,数日考えたあげく,エーヴァ・ロッタの命を救った山賊ことばを赤バラ軍とも共有する責任がある,との結論に達したのだ。「もし,奴らがいつか,また人殺しに出会ったときは,ひどい目に会うからね。」
こういうところに,スカンディナビアの生きた民主主義,相互扶助の伝統がうかがえる。
シックステンは英語が落第点なので,英語の文法をやらなければいけないのに,英語はそっちのけで山賊ことばには熱心に取り組む。その理由がふるっている。
「英語は,どんな人殺しでも知ってるから,たいして役に立たんよ。」
そりゃそうだ。

山賊ことばの「語学教授」の最中に,エーヴァ・ロッタのパパが「焼きたての甘パンを皿に盛ったのを」もってくる。
それは,

en tallrik nybakede bullar

である。尾崎義さん,同じbullarを菓子パンと書いたり甘パンと書いたり,ちょっと揺らぎがある。

『カッレくんの冒険』の食べ物については以上。

ところで,親しみやすい巡査のビョルクは,エーヴァ・ロッタらから「ビョルクおじさん」と呼ばれている。この原語は

Farbror Björk

である。farbrorは父の兄弟,すなわちおじさん。スウェーデンでは血のつながりのない身近な人物をおじさん,おばさんと呼ぶのだとわかった。そこは日本と同じ。たぶん英語圏では,Uncle Björkとは呼ばないと思う,Mr.Björkであろう。






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Posted by ボブ・マリ at 09:01│Comments(0)物語・詩
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